文2

□戯れ合い日和
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ヒュンヒュンと、木刀が風を切る音が響く。
それと協和するように、固いものがぶつかり合う乾いた音が幾重にも鳴り響いた。

私の目には捕らえられないほどの早さで動く二本のそれを、縁台に腰掛けて何をするでも無くただ眺めていた。


「Hey!小十郎!!本気出して来いよッ!!」

「ッ、あまり精を出し過ぎると、この後の公務に差し支えますよ!」

「…Shit!萎える事言ってんじゃねーよ!」


実に楽しそうに木刀を振るう政宗と、表情には出さないが生き生きと瞳に力が籠もってる小十郎が、凡人には目で追うだけで精一杯な動きで打ち合っている。
何度見ていても飽きないその手合せの光景に、改めて武人としての彼らの価値を実感した。

出来る事なら今暫らく眺めていたいのだが、流れる時間がそれを許さない。

そろそろかと小さく呟き、立ち上がってパンパンと手を叩いた。


「そこまで!…お二方、そろそろ休憩に致しましょう」


私の声に反応し、動きを止めた二人がこちらに顔を向ける。


「…もうそんな刻限か」

「チッ!…Time outかよ」


軽く息を切らし、揺れる髪や整った顎先から汗を滴らせる二人に歩み寄り、用意した手拭いを先に小十郎へ手渡した。


「いつも悪いな」

「いえ、私も楽しませて貰ってますから」


そう笑顔で返せば、小十郎は薄く微笑みを浮かべて汗を拭った。

それを一瞥してから、もう一人の人物へと振り向く。
刹那、思わず声を荒げて駆け寄った。


「政宗様ッ!!袖口で拭かないで下さいと、いつも申してますでしょうッ!!」

「Ah?別に良いじゃねーか、俺の着物なんだし」

「誰がそれを洗うと思ってんですか!!」

「ぶっ!…テメっ、」


何か口を開こうとした政宗の顔を、有無を言わさず手拭いで拭う。

私よりも遥かに背が高い彼の顔を拭くために、精一杯背伸びをしながら腕を伸ばした。


「ほら!ちゃっちゃと屈んで下さい」

「…ったく、小煩いkittyだ」


悪態つきながらも軽く屈んでくれ、幾らか近付いた深い茶を讃える頭に手拭いを被せて、わしゃわしゃと掻き混ぜた。
水分を含みキラキラと光を反射する髪を、子供にするような手付きで丁寧に拭いていく。

時折、前髪と白い手拭いの間から垣間見える左目が、心地好さそうに細められている事には気付かない振りをした。




(同時に高鳴る心臓も、気のせいだと飲み込んだ)

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