文2
□春の狂騒曲
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「おにはーそとー!」
バラバラと賑やかな音を立て、手の平から零れた豆が散らばる。
毎年恒例の豆まきに興じる城内からは、豆の散らばる楽しげな音が響いていた。
豆を撒き終えると、女中に煎れてもらった茶を用意して煎りたての福豆を頂くのが毎年の流れだ。
「はい、お祖父ちゃん。ちゃんと年の数だけ選り分けといたから」
「………むぅ。なんか少なくないかの?」
「そう見えるだけでしょ。食べ過ぎには気を付けてね」
「分かっとるわい」
湯呑みを手渡し、緩やかな苦笑を浮かべてゆっくりと部屋を後にした。
升一杯に盛られた豆を手に、縁台で彼を呼ぶ。
「小太郎さーん」
「………」
例の如く、音もなく瞬時に目の前へと降り立った男に、手にした升を差し出した。
「小太郎さんも食べませんか?福豆」
「…………」
しばし、私の手元に視線を送り、緩急な動きで伸ばされた腕にソレを手渡す。
「…………」
「……………」
縁台に腰掛け、彼も座るように促せば静かに隣に並ぶ。
私は、黙々と豆を口に運ぶ彼の手元へじっと視線を固定した。
「………?」
「…ぇ、あ、いや何でもないんです、ごめんなさい」
不自然に凝視されている事を疑問に思ってか、軽く首をかしげられ、慌てて苦笑を浮かべて視線を外す。
「………」
やや気まずい間を置いて、再び豆へ手を伸ばす小太郎を、そっと横目で視界に入れた。
(えっと…あれ?さっき何個まで数えたっけ…?)
一定のペースで動く指先を、至極真剣な表情で見つめながら必死に脳を回転させる。
節分の福豆を利用して、謎に包まれている小太郎の年齢を探ってしまおうという、密かな計画を実行しようと頑張っては見るものの、一定のペースで動く指先を追い続けるのはなかなか難しい。
そもそも、さっきから彼は結構な量を口に運んでいる気がするし、本当一体いくつなんだろう。
「………」
「…っわぁ!」
突然、すぐ目の前に迫った男の顔に思わず間抜けな声が上がる。
不思議そうに首を傾けながらこちらを覗き込む小太郎に、慌てて笑顔を浮かべて口を開いた。
「ちょっと、ぼーっとしちゃってました」
「…………」
あははと乾いた笑みを浮かべて誤魔化そうと試みるが、じっと突き刺さる視線に堪え切れずに晴れ渡る空へ顔を向けた。
「………」
トントンと控えめに肩を叩かれ、再び隣へ視線を戻す。
「何ですか、!」
刹那、ひょいと口の中へ何かを放り込まれ、ビクリと心臓が跳ね上がる。
口腔に広がる芳ばしい香りから、ソレが彼の手にある福豆だと分かった。
ビックリした表情で見上げる私の頭を、柔らかく撫でながら微かに口角を上げた小太郎に、つられるように淡く色付き始めた頬を緩ませ微笑んだ。
(…実際、本当にこの人いくつなんだろ…もう100個くらい食べてる気がする…!?)
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