文2

□黒飴トリッキー
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「小太郎さん!Trick or treat!」

「………?」


ソファーに腰掛けのんびりとテレビを眺めていた小太郎へと、私は悪戯っぽく微笑みながら声を掛けた。

予想通り、意味が分からないと言うように傾く頭に、より笑みを強めながら得意げに言葉を紡ぐ。


「今日は外国のお祭りで、色んな仮装をした子供たちがTrick or treat…『お菓子をくれなきゃイタズラするぞ』って言って回る日なんですよ」


具体的には違うと思うのだが、正直私もそこまで深く知っている訳ではないので些か簡略的過ぎるような説明をする。

すると彼は、おもむろにテレビを指差し小さく首を傾けた。
指先の示す先へ視線を移せば、丁度ニュースにハロウィンで盛り上がる何処かの国の映像が映し出されていた。


「そうそう、コレですよ」


「こっちじゃ仮装したりはしないんですけどね」と笑って彼の隣へ腰を下ろす。
じっと興味深そうに、魔女や狼男など多種多様な衣裳に身を包み、盛り上がっている画面の中の人々を見つめている小太郎に、私は再び悪戯っぽい笑みを浮かべて口を開いた。


「…お菓子、くれないんですね?」

「………」

「じゃぁ、遠慮なくイタズラさせてもらいます!」


子供のような顔で何をしようか考えている私に、何処か呆れを孕んだ視線を向けた小太郎が、不意に何かを思いついたように口角を僅かに持ち上げた。

するりと前触れもなく伸びてきた掌に頬を捕らえられたと気付いた瞬間、目の前が深紅に染まり、自分以外の体温が流れ込む。


「………ッ!!」


ぬるりと唇を割る生暖かい感触に、ビクッと身を震わせ反射的に目を瞑る。
同時に、固い何かが口内へ侵入し独特の甘味が口腔を支配する。

軽いリップ音を残して唇が解放されると、私は熱を持つその場所を手の甲で押さえ、勢いよくソファーから立ち上がった。


「なっ、なななぁッ!!?」

「………ッ」


火が出るんじゃないかと思うくらいに真っ赤に染まる顔を鎮められないまま、ころりと甘く存在を主張する飴玉が全身に羞恥を巡らせる。

完全にパニック状態の私を眺めて、目の前の風の悪魔は赤い髪を微かに揺らして実に楽しげに口角を吊り上げた。





(お菓子もイタズラも)
(それが伝説クオリティー)

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