□触れて、捕らえて、溶かされて。
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用事があると席を外している小十郎の代わりに、政宗の見張り役として呼ばれた私は、黙々と筆を動かす指先を何をするでも無くただ眺めていた。

不意に、勢いよく筆が置かれ、政宗は大きく息を吐きながら後ろに重心を掛けて天井を仰ぐ。


「………It finally ended.」

「お疲れ様です」


そっと差し出した湯飲みを受け取り、ゆっくりと口に運ぶ間も、じっとその動きに視線を向ける。
あまりにも私が一点に視線を固定していたせいか、少し怪訝そうな政宗の声が降り掛かった。


「…Hey honey.そんなに俺の手が気になるか?」

「えぇ、まぁ」


素直に頷けば、政宗は湯呑みを置いて訝しげに疑問符を浮かべた。

それを無視して、私は好奇心の赴くままに口を開く。


「…手、触らせて頂いても宜しいですか?」

「………好きにしな」


どこか呆れたように落とされた言葉に、「ありがとうございます」と小さく呟いて、だらりと力の抜けた腕を取りその掌を両手で掴む。

思った通り、固く骨張っているソレは、見ている時よりも大きく感じた。


「やっぱり大きいですね。固さも厚みも全然違う」

「Ha!当たり前だろ」

「指も長いし…流石、六爪流を操る独眼竜ですね。…いつも、どうしてあんなに沢山刀を振り回せるのか疑問に思ってたんです」

「そりゃ、俺が天才だから出来んだよ」


得意気に軽口を叩く政宗の手を、その形を確かめるように触れていく。
男性特有の力強さは勿論の事、日頃真剣に鍛えられていると分かる固くなった皮膚に、改めて政宗の剣に掛ける想いを少しだけ垣間見れた気がした。

私の手との違いがより際立つように、手首を揃えて掌を合わせて見せる。
元々男女の違いがあるとはいえ、面白いくらいに余った指先に思わず口元が綻んだ。


「ほら、私と比べてこんなに違いますよ」

「Honeyの手が小さいだけじゃねーか?」

「私は普通です。政宗様が大きいんですよ」


クスクスと笑う私を見据え、彼もゆっくりと口角を持ち上げた。

同時に、掌を合わせていた私の手を包み込むようにして指先を絡める。
突然温かい温度に包まれ、咄嗟に手を引こうとするが、がっちりと繋がれて動かす事すら出来なかった。


「政宗様…?」

「…本当に小せぇな。簡単に潰れちまいそうだ」

「いたたたたッ!!」


政宗は悪戯っぽい笑みを浮かべて、握った手に力を込めてくる。
万力のように締め付けられた手に思わず顔を歪めて声を零せば、酷く楽しげにクックッと喉が鳴った。

あいている反対の手で肩を叩いて抵抗すれば、締め付ける力は緩むがしっかりと絡まった指先を解いてくれる気配はまるでない。


「あの、放して下さいませんか?」

「It refuses.」


するりと指先で手の甲を撫でられ、否が応にも熱が集まる顔を誤魔化すように、しかめた表情で言葉を紡ぐ。


「日本語喋って下さい。何言ってるのかさっぱり分かりません」

「…お前ばっかり触るのは不公平だろ?」


ニヤリと怪しい笑みを浮かべると、繋がれたままの腕を軽く引き寄せ、見せ付けるよう手の甲に唇を寄せる。
柔らかい感触が、ついばむように手の上を滑る感覚に、全身の血液が沸騰するんじゃないかと思った。

もはや声を上げる事すら出来ずに、恥ずかしさやら何やらで頭がぐるぐる回っている私を、政宗は瞳だけで見つめて喉を鳴らす。
彼の手の中で踊らされてるように感じて、無性に悔しさが込み上げた。


「………!」


屈してたまるか!と熱を持て余している頭に喝を入れ、捕われている手を全力で握り返し、キッと政宗を睨み付ける。

私のささやか抵抗に、一瞬だけ目を見開くと、実に満足そうに口角を歪めて微笑んだ。





(素直に堕ちてなんてやるもんか!)
(…コイツ、逆に煽ってる事に気付いてねーな)

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