文
□放課後に咲く
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「……これでラスト…!あぁ〜、やっと終わったぁ」
「………」
二人で作業をこなしたおかげで、何とか日が暮れる前に終わらせる事が出来た。
沈もうとする太陽が辺りを真っ赤に染め上げる中、完成した冊子を段ボールに纏めて帰り支度を済ませる。
「それじゃ、そろそろ帰ろっか」
「………」
こくりと頷いた小太郎と共に生徒会室を後にし、昇降口へ向かう。
手早く靴を履き替えながら、口を開いた。
「風魔くんって家何処だっけ?私は駅側なんだけど」
「………」
私の問いに小太郎は一度だけ頷き、唇だけで『同じ』と呟いた。
「なら、途中まで一緒に帰ろう?」
「………」
こくりと了承してくれた小太郎と並んで、昇降口を後にした。
燃えるように赤く染まった街並みの中を、付かず離れず絶妙な距離を保って歩く。
時折視線を向けると、彼の端正な横顔と深紅の髪が夕焼けに染まる世界によく映えて、見惚れてしまいそうになる。
その度に慌てて視線を戻し、気恥ずかしさを誤魔化すように口を開いた。
そんな風に、いつもと同じ帰り道を、いつもと違う心境で歩いて行くと、あっという間に自宅へ向かう分かれ道に差し掛かった。
「風魔くん、私ここ右だから」
「………」
立ち止まって声を掛けると、彼も止まって振り向いた。
私は、改めて頭一つ分近く身長の高い彼を見上げて言葉を紡ぐ。
「今日は本当に有り難う。すごい助かったよ!…今度何かお礼するね」
「………」
私の言葉に、彼は首を左右に振った。
それを制するように、「遠慮しないで。私が何かしたいんだ」と笑い掛ける。
「それじゃ、風魔くん、また明日」
「………、」
「…ん?」
小さく手を振り、歩き出そうとした刹那、何かを言いたそうな小太郎に服の端を掴まれた。
「どうしたの、風魔く」
私の言葉を遮るように、彼の長くしなやかな指先が私の唇に触れる。
ドクンと騒めきだす心臓を感じながら見上げると、彼はフルフルと首を振った。
「ふ、風魔くん…ッ!?」
「………」
突然の行動の真意が掴めず名を呼ぶが、再び彼の人差し指に制され、見上げる先には左右に首を動かし何かを訴えている小太郎の姿。
混乱する思考を必死に動かし、彼が伝えようとしている言葉を探る。
「えっと………風魔くん、じゃ…ない?」
「………」
名を呼ぶたびに制される為、呟いてみた言葉に彼はこくりと頷いた。
(………って事は、まさか…)
行き着いた答えは、非常に困難…と言うよりカナリ恥ずかしいのだが、じっとこちらを見つめる小太郎からは逃れられそうに無い。
無言の圧力に根負けし、(変に意識しなければ大丈夫…ッ!!)と心の中で唱えて、ゆっくりと口を開いた。
「……こ…小太郎、くん…?」
下の名を呼ぶだけなのに、何故か恥ずかしさが込み上げる。
顔に熱が集まるのを感じながら、恐る恐る彼を見上げた。
「………ッ!!」
ふわりと風に揺れる毛先に紛れて、小太郎の口角が緩やかに弧を描く。
初めて見た彼の笑顔に、一瞬鼓動が止まった気がした。
追い打ちを掛けるように、私の頭にぽんと乗せられた掌から心地よい体温が流れ込む。
半ば呆然とする私に向かい、彼は小さく手を振るとスタスタと左側の道へと足を進めた。
遠ざかっていく深紅の髪が揺れる背中を眺め、どうしようもない程に高鳴り続ける鼓動と、夕陽と同じくらい真っ赤に染まった顔を持て余したまま、私は暫くその場に立ち尽くした。
(茜色に染められて、)
(ほころびだした蕾の行方)
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