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□放課後に咲く
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「もうっ!なんっでこうなるかなぁ〜…」
目の前にうず高くそびえ立つ紙の束に恨み言を吐き出しながら、地道に腕を動かしていく。
次の生徒総会で使う冊子作りを、役員でもない私が、それもたった一人で放課後に黙々とこなしているのには、それなりにくだらない訳がある。
まぁ、単純に本来これを作る役目を負っていた友人から、「どうしても抜けられない、今後の人生そのものを左右するような重大な会合があるから」と必死の形相で泣き付かれ、てっきりその子の穴埋めに作業に参加するだけだと思った私は二つ返事で了承した。
それが、実に浅はかな事だったと思い知らされたのは、生徒会室の扉を開けた瞬間だった。
本来、友人の他に二人の女子役員が居る筈なのだが、生徒会室には誰も居らず、変わりに一枚の書き置きと大量のプリントの束だけが置いてあった。
「…何が『人生を掛けた会合』よ。只の合コンじゃないかぁ…ッ!!」
ぐしゃりと、部屋に残されていたやけにハイテンションな書き置きを握り潰す。
女三人集まれば、まこと恐ろしいものであると激しく痛感しながら涙混じりの溜め息を零した。
「……うぅ、終わる気がしない…。明日から一週間は購買奢らせてやるぅ…ッ!」
パチパチとホチキスでプリントをまとめながら、誰も居ない教室に響く己の声に虚しさが込み上げた。
まだまだ減る様子の見えない紙の山に、もう何度目かも分からない溜め息を吐き出した瞬間、ガタンと扉が開く音が鳴りそちらへ視線を移すと、特徴的な深紅の髪を持つ長身の男子生徒が佇んでいた。
「風魔くん!どうしたの?」
「………」
彼とは同じクラスで、何度か話した事もあった。
と言っても、彼は極端な無口で一度も声を発したところを見た事が無く、長く伸びた前髪で隠された目元も私は知らない。
小太郎はスタスタと私の対面側に来ると、スッと手に持った鞄を差し出した。
見慣れたその鞄を見た瞬間、慌てて自分の周りを見回すが、勿論そこには何もない。
「あッ!!コレ…うそ!私、バカじゃん!!」
「………」
鞄をまるまる教室に置き忘れたまま来てしまったなんて、マヌケにも程がある。
あまりの恥ずかしさに埋まってしまいたい思いで小太郎から鞄を受け取り、気まずさを何とか紛らわせようと口を開いた。
「本当に有り難う…!!わざわざ届けさせちゃってゴメンね…」
「………」
小太郎はフルフルと首を横に振ると、机の上に鎮座しているプリントを指差し首を傾げた。
「…生徒総会の資料なんだけど、色々あって私一人で作る羽目になっちゃってねー」
アハハと苦笑しながら頭を掻く私を一瞥すると、彼はおもむろにプリントを手に取り、サクサクと纏めていった。
「え?手伝ってくれるの?」
「………」
こくりと肯定を示す小太郎に、慌てて言葉を紡ぐ。
「や、そんな悪いよ!鞄届けてもらった上に手伝わせるなんて、」
「………」
言い終わる前にフルフルと首を横に振り、手短な紙にサラサラと文字を綴る。
『二人の方が早く終わる』
「う……確かにそうだけど…、本当に頼んでもいいの?」
「………」
申し訳なく感じて言葉を紡ぐが、小太郎はこくりと首を縦に振り、着々とプリントを纏めていく。
「…有り難う、風魔くん。地獄に仏とはキミの事を言うんだね…!!」
彼の優しい手助けに心底感激しながら、私も止まっていた作業を再開した。
「って、風魔くん早ッ!!もうそんな完成してる…!」
「………」
「風魔くんって器用なんだね」
「………」
相変わらず小太郎は何も言わないが、私が話し掛けると首を振ったり傾げたりして意思表示してくれるので、不思議と会話は続いていった。
取り留めのない話が途切れ、部屋に紙を纏めるホチキスの音が響く瞬間すらも、何処か居心地の良さを感じた。